3.析出物の形状変化にともなうエネルギーの変化:観察結果と計算結果の比較
微細なCo-Cr合金析出物の結晶構造はCu母相の拘束によって面心立方構造となる.しかし,両者の格子定数は異なるため弾性ひずみが発生し,この弾性ひずみによる弾性エネルギーが析出物の形状を支配するエネルギー因子の一つになる.析出物の体積が同一の場合,球から立方体への析出物の形状変化で弾性エネルギーは減少する.これは母相と析出物が持つ面心立方構造とそれによる弾性係数の異方性の影響である.
弾性エネルギーに加えて,母相 / 析出物間の界面エネルギーが析出物の形状を支配するもう一つの重要なエネルギー因子である.この合金系では界面エネルギーはほぼ等方的とみなせる.これにより界面エネルギーは,析出物の体積が同一の場合,球から立方体への析出物の形状変化で増大することになる.
上記の二つのエネルギーが析出物の平衡形状を決める主要な因子であるが,弾性エネルギーと界面エネルギーは球から立方体への形状変化に対して互いに逆の形状依存性を持っている.さらに,弾性エネルギーが析出物の体積に比例(析出物寸法の三乗に比例)する量であるのに対し,界面エネルギーは母相 / 析出物間の界面の面積に比例(析出物寸法の二乗に比例)する量である.これらより結局,寸法が小さい場合は界面エネルギー支配で析出物は球に近い形状に,寸法が大きい場合は弾性エネルギー支配で析出物は立方体に近い形状となる.これが析出形状変化についての定性的な理解であるが,実際にこれらのエネルギーを定量的に評価し,エネルギーを最小にする析出物形状を計算で求め,観察結果と比較した結果がこのページの冒頭に示した図である.
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