現代の材料開発は,人間,環境,自然への「優しさ」を重視するものでなくてはなりません.そのためには,基礎的な見地から材料機能発現の本質を知ることが大切で,基礎と本質を知れば応用への道が開けて、「優しい」材料開発へのブレークスルーが期待できます.
材料科学は全ての科学技術の基盤となる学問でもあります.どんなに性能の良い物質や材料でも,使用中にすぐ壊れたり性能が劣化してしまったら,使いものになりません.したがって,材料科学は,物理,化学,機械,電気,社会と環境,など,あらゆる理工学の知識を駆使して発展して行かなければならない学問分野です.ですから,どんな分野に興味のある人でも,必ず,自分にフィットした研究対象が見つかります.
加藤研究室は,様々な専門(物理、化学、材料、機械、電気,等)を学んできた学生の集団から成り,材料の「なぜ?」を解明するために,種々の側面から材料の「組織と性質の関係」に関する研究を行っています.
扱う材料も,純金属の単結晶モデル材料から機能性材料,構造材料など、多岐に亘っています.また,尾中研究室(材料物理科学専攻),藤居研究室(材料工学専攻)とは研究室連合を構成して、力学的性質から機能的性質までの材料科学を追究してます.
ここで,材料科学の「未踏領域」について説明します.
材料科学の守備範囲は非常に広く,長さの尺度で考えると,原子サイズ(10-10 m)から,巨大構造物(102 m)までを取り扱います.これらの広い範囲を扱う学問は材料科学をおいて他にあまり例を見ません.
以上のことだけでも,材料科学は,魅力的な学問分野なのですが,長さの尺度の中で,材料の性質が急に特異性を示すようになる領域,しかし,学問的には未知の部分が非常に多い領域,が存在することに,数年前に気付きました.それが「ナノより大,ミクロより小」の領域です.具体的には 10 nm から 1μm までの間の領域で,材料科学でもほとんど手つかずの未踏領域です.
なぜ,この領域が未踏領域なのでしょうか?
材料の諸性質・性能は,材料中の組織(転位,結晶粒界,第2相の分布状態など)に強く依存するものがほとんどです.そして,通常は,材料組織の大きさは 1μm 程度以上です.組織解析の基礎となる学問である連続体力学,熱力学,統計力学などでは,扱う系は非常に多数の原子を含んでいることが前提ですので,より小さな組織,すなわち「ミクロより小」の組織をこれらの学問で扱うことは,組織が小さくなるにつれて困難になります.これが尺度の大きい方から小さい方へ攻めて行った場合の壁です.
一方,サイズが 1 nm から 10 nm 程度の原子,点欠陥やその集合体を扱うことは,様々な原子シミュレーション法が威力を発揮します.聞くところによると,コンピューターの発達のお陰で,原子シミュレーションでは,現在では10 億個の原子の集合も扱えるようになってきたということです.これはすごいことなのですが,3次元結晶で考えると,10億個とは,1000 x 1000 x 1000 個のことで,仮に原子1個の大きさを 0.3 nm とすると,一辺の長さが 0.3 μm の小さな立方体結晶を扱うのがせいぜいで,ここでも尺度の小さい方から大きい方へ攻めて行った場合の「ナノより大」の壁が存在します.
さて,「ナノより大,ミクロより小」の壁のせいか,材料の性質・性能もこの領域で大きく変化することが知られています.たとえば,
・VLSI配線: 線幅が 1 μm より小さくなると,エレクトロマイグレーションやストレスマイ
グレーションによる断線が急に問題になる.
・ 薄膜,多層膜: 膜厚が 1 μm より小さくなると,特異な電気的・磁気的性質を示す.
・ マイクロマシン:1 μm より小さなマシン製造技術とその評価法の壁.
・ 転位組織:1 μm より小さな転位組織(セル,サブグレイン,転位壁など)は非常に稀.
・ 超微細結晶粒材料:1 μm より小さな結晶粒径になると,多くの特異な力学的性質が発現.
など,たくさんあります.そして,ここに材料科学の未踏領域が厳然と存在します.
未踏領域を対象として研究を進めれば,今までの材料科学の常識を覆すような新しい現象の発見と理解に結びつく可能性があります.ロマンと好奇心に満ちた研究分野です.
我々は未踏領域を一緒に探る仲間を心待ちにしてます.
さあ,一緒に未踏領域に挑戦しませんか?
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