実用材料のほとんどは多結晶である.そして,通常の結晶粒径は,小さくても 10μm 程度,大きいものでは 1mm 以上ある.一方,最近10年間の間に,材料の形状を変えない強加工によって巨大ひずみを材料に与え, 1μm 程度以下の超微細結晶粒を持つ材料が作られるようになった.
「研究への思い入れ」でも述べたように,「ナノより大きく,ミクロより小さい」領域は,材料科学の未踏領域である.実際,超微細結晶粒を持つ材料は,通常の結晶粒を持つ材料に比べて,非常に特異な力学特性を示すことが明らかにされつつある.具体的には,高い強度と延性を併せ持つこと,大きな強度のひずみ速度依存性があること,などである.
研究テーマ(1)でも述べたように,変形後の転位組織の基本単位の大きさは,およそ 1μm 程度である.したがって,もし,結晶粒の大きさがこれと同サイズかこれより小さいと,各々の結晶粒の中に転位組織の形成は期待できない.
さらに,右図のように,1μm 以下の結晶粒径になると,結晶粒界密度(あるいは結晶粒界が占める体積率)が,飛躍的に増加する.このことが超微細粒材料の特異な性質に大きく関係していることは間違いないが,詳細は未知であり,「ミクロン以下の未踏領域」がここでも重要になる.
加藤は,この分野の研究で,平成20年度まで文部科学省 科学研究費補助金 特定領域研究「巨大ひずみが開拓する高密度格子欠陥新材料」の計画研究代表者になった.さらに,平成22年度から5年間の予定の文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「バルクナノメタル ー常識を覆す新しい構造材料の科学」でも計画研究代表者になっている.これらの大型プロジェクト研究には,材料の力学特性に関する我が国トップクラスの研究者が多数参加しており,そのような方々との共同研究体制もとって,結晶粒径を超微細化した材料の研究を精力的に推進している.
「かものはし連合」の強みを持つ当研究室では,超微細粒金属の力学的性質を調べ,特異な性質の発現機構を,転位論やマイクロメカニックスを駆使して明らかにすることを目指している.本研究の延長性上には,今までに実現不可能であった強度も延性も高い夢の金属材料の実現が待っている.
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