結晶の変形には,転位(dislocation)という結晶欠陥(結晶中の原子配列の乱れが線状に連なったもの)が大きな役割を担っている.金属疲労でも同様で,疲労変形中に転位が運動,蓄積され,特徴ある「転位組織」を形成する.本研究では,金属疲労と転位組織の関係を明らかにし,材料設計において非常に重要となる疲労寿命を転位組織形成の立場から理解するため,単結晶モデル材料や実用合金を用いた実験を行っている. 上下の試験機へのつかみ部を大きくとった疲労試験片に,塑性ひずみ振幅 γp を一定として引張,圧縮の繰り返し変形を行うと,応力振幅は最初は加工硬化によって上昇するが,やがて一定の飽和応力値 σs に達する.一定の塑性ひずみ振幅値をいろいろ変えてこの実験を繰り返すと,下右図のような「繰り返し応力ーひずみ曲線」が得られる.ここでは,純Cuの単結晶を使って得られた曲線を示してある.この曲線を3つの領域に分けて考えてみる. 領域 I, II, III の各々の疲労試験を行った試験片の内部を,透過型電子顕微鏡で観察した結果が下の写真である.黒い部分が転位がたくさん集まっている所で,白い部分が転位があまりない所である.きれいな転位組織が形成されていることが分かる.領域 I, II, III の各々の組織は,それぞれ vein(葉脈)組織,ladder(はしご)組織,cell(小部屋,細胞)組織と呼ばれる.それぞれの組織の単位の大きさが,材料科学の「未踏領域」の上限である 1μm 程度であることは非常に興味深い. 当研究室では「なぜ?」このようなサイズでこのような形をした転位組織が形成されるのか?,また,このような転位組織と疲労寿命とはどのように関係するのか? など,疲労と転位組織の関係を明らかにする研究に精力的に取り組んでいる.
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